JACET第12回英語教育セミナー(大阪、2024)

テーマ:「英語教育の未来を考える:
初等教育・中等教育教員養成・生成AI活用の視点から」

新学習指導要領の導入やコロナ禍、生成AIなどにより、日本の英語教育は大きく変革されました。新学習指導要領の導入により、教育現場の対応や評価方法が変化し、またコロナ禍によって学習が急速にオンライン化されました。さらに、生成AIの出現により、効果的な学習方法の導入や学習の質の向上が課題として浮上しています。これらの課題を解決するためには教育現場全体の協力が不可欠であり、長期的な視点での教育改革が求められています。

そこで第12回英語教育セミナーでは「英語教育の未来を考える」をテーマに、小学校での教科としての英語の導入とそれに伴う変化、新学習指導要領導入後における中学校・高等学校の英語教師教育、そして生成AIを活用した英語教育と未来の英語教育を多角的に考える機会を持ちたいと思います。各分野で活躍されている講師の先生方にご講演をいただきます。講演後には参加者間での意見交換の場も設けます。多くの皆様の御参加をお待ちしております。

講師

JACET 12th English Education Seminar (Osaka,2024)

Theme: “The Future of English Education: Perspectives on Elementary School Education, Secondary School Teacher Education, and Generative AI”

Due to the introduction of the new Course of Study, the COVID-19 pandemic, and generative AI, English education in Japan has undergone significant transformation. The new Course of Study has changed the way lessons are taught and evaluated in schools. Additionally, the COVID-19 pandemic accelerated the shift to online learning. With the advent of generative AI, the introduction of alternative learning and its quality have emerged as challenges. Solving these issues requires the cooperation of the entire educational field and long-term educational reform.

At the 12th English Education Seminar, under the theme "The Future of English Education: Perspectives on Elementary School Education, Secondary School Teacher Education, and Generative AI," we aim to offer an opportunity to discuss English language education from various perspectives such as the introduction of English as a subject in elementary schools and the resulting changes, English teacher education in junior high and high schools following the implementation of the new Course of Study, and the future of English education utilizing generative AI. We have invited distinguished speakers in each field. There will also be a session for participants to exchange opinions after the lectures. We look forward to seeing many of you at the seminar.

Lecture 1
生成AIと共存する英語教育に向けて
金丸敏幸氏(京都大学)

講演①【要旨】

 ChatGPTが登場して2年が経ち、大学でも多くの教員や学生が、様々な研究、教育、学習に生成AIを活用していると報告されている。生成AIは文献調査やデータ分析などで効率化をもたらしている一方、課題やレポートなどで生成AIの出力をそのまま提出するケースが見られるなど、新たな問題も顕在化している。英語教育では、生成AIの影響はさらに大きい。翻訳や要約などの言語活動では、生成AIの成果が多くの学生の能力を上回るとされており、そのため学習動機が低下する可能性が指摘されている。ライティングでは、英語を書くことだけでなく、語彙や文法の修正、内容の一貫性や結束性の向上、アウトラインの作成から具体例や説明の追加に至るまで、あらゆるプロセスで生成AIを活用することが可能である。英語学習に積極的な学生ほど生成AIを活用し、それに伴い、学習意欲が低い学生との差が広がることも予想される。この先、一層充実した英語指導を行うためには、生成AIの効果的な活用が求められる。さらに、生成AIの出力を鵜呑みにせず、その信憑性や文脈への適合性を批判的に検証する能力を養うことも重要となる。生成AIを単なる便利なツールとして扱うのではなく、学生の自律的な学習を支援する教育パートナーとしていくためには、どのようにすれば良いのか。本講演では、生成AIの特性を確認しながら英語教育での具体的な活用方法とその可能性について展望する。

ご略歴

京都大学大学院人間・環境学研究科修了。京都大学博士(人間・環境学)。理論言語学・自然言語処理の知見を活用し、外国語教育におけるカリキュラム、教材、指導法の開発や教育評価の研究を行っている。京都大学の全新入生が利用する英語e-Learningシステム「GORILLA」を開発、その運用に携わる。近著に、『英語教材の最前線』(分担執筆)などがある。現在、大学英語教育学会の他、言語処理学会、日本認知言語学会の各理事を務める。外国語教育と生成AIに関する講演やメディア掲載として、EDIX東京2024、EDIX関西2024、EDIXオンラインセミナー、日本経済新聞、朝日新聞、他多数あり。

Lecture 2
どうなる?これからの教員養成-「良い英語教師」の昔・今・未来-
臼倉美里氏(東京学芸大学)

講演②【要旨】

 今、日本の英語教育は様々な点で過渡期にあります。小学校で外国語(英語)が必修化され、それに伴って中学校及び高校で学ぶ内容が増加し、大学入学共通テストが始まりました。さらには教育のDX化が進み、生成AIの台頭により、新しい英語学習の形態が生まれつつある中で、「英語を学ぶ必要ってあるの?」「英語の先生ってもはや必要ないのでは?」といった声が聞こえてきたりします。そして教育現場では教員不足の常態化が深刻な問題となっています。
 また、過去10年の教員養成にまつわる大きな出来事としては、2016年に教職免許法が改正され、小学校英語に関する内容が盛り込まれ、中学校1種免許を取得するために必要な「教科の指導に関する科目(例:英語科教育法)」の単位数が8単位に増えました。また、2017年には文部科学省が「教員養成・研修 外国語(英語)コアカリキュラム」を公表し、大学の教職課程で共通に習得すべき資質能力が示されました。さらに、より高度な専門性を備えた教員を育成することを目指して、大学院の教職大学院化が進んでいます。 
 このように変化が目まぐるしい現在においても、変わらないことがあります。それは「良い教師が育つには時間がかかる」ということ。そして、「教員養成は教師教育のゴールではなくスタートだ」ということです。
 そもそも「良い英語教師」とはどのような教師なのでしょうか。その定義は昔と今、そして未来において変化するものなのでしょうか。本講演では、コアカリキュラムができるまでのちょっとした裏話や、東京学芸大学で40年以上の歴史を持つ、英語指導技術アップのための英語教育ゼミ及びそこから派生した授業のお話などを交えながら、これからの教員養成について参加者の皆さまと一緒に考えてみたいと思います。

ご略歴

大学卒業後、都立高校の教員として5年間勤務。その間、東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程 英語教育専攻を修了。引き続き東京学芸大学大学院  連合学校教育学研究科 博士課程 言語文化系教育講座に進学し、都立高校を退職。博士(教育学)を取得後、昭和女子大学人間文化学部助教、東京学芸大学教育学部講師を経て、2018年より現職。主な研究テーマは「日本人英語学習者の英文読解における明示的な文法知識の必要性」や「中高ギャップ解消のための高校英語授業改善」など。 

Lecture 3
今の時代の子どものモチベーションについて
正頭英和氏(立命館小学校英語科)

講演【要旨】

 毎日毎日、子どもと向き合い、授業を繰り返しています。そうすると、「3年前には通じた方法が、今は通用しない」という現象がよくあります。子どもの中の流行りすたりのスピードは以前の比ではなく、スマホで興味のないものを指一本で弾き飛ばすことができる「今の時代」において、子どもたちの周りには「楽しいもの」しか残っていません。そんな今の時代において、子どもの学び(勉強)へのモチベーションはどのように確保すべきなのでしょうか。本講演では、現場教員である話者の試行錯誤とその結果見えてきた「3つの方法」をお伝えしたいと思います。

ご略歴

立命館小学校教諭。大阪府出身。関西外国語大学卒業。関西大学大学院外国語教育学修了(外国語教育学修士)。京都市公立中学校、立命館中学校高等学校を経て現職。Minecraftを活用した授業が認められ、2019年のGlobal Teacher Prizeにおいて、世界150ヵ国以上、3万人のエントリーの中から、日本人小学校教員初となるTop10に選ばれ、「世界の優秀な教員10人」となる。その他には、桃鉄教育版のエデュテイメントプロデューサーなどもつとめている。主な著書に「世界トップティーチャーが教える子どもの未来が変わる英語の教科書(講談社)」などがある。